学生の頃は大事な試験や発表会、社会人になってもプレゼンテーションや商談など、「重要な機会にどうしても緊張してしまう」「できれば緊張したくない」という方も多いのではないでしょうか。
大事な場面で過度に緊張してしまい、普段の力が出せないのはとても勿体ないですよね。なんとか緊張しないようにと頑張ってみても、余計に追い込まれたり、無駄な力が入ってしまうこともあります。
実は緊張は避けるのではなく、コントロールすることで、持てる力を存分に発揮することができるのです。ここではそんな「緊張をコントロールする方法」を紹介します。ぜひ身に着けて、今後に活かしてみてください。
緊張の正体
緊張する人ほど「緊張」の正体がわからない
そもそも、緊張とは一体何なのでしょうか。
実は、緊張に弱い人ほどその正体をわかっておらず、「緊張すると頭が真っ白になって失敗しがち」「とにかく避けたいもの」などマイナスのイメージを抱き、恐れているだけということが多くあります。
逆に、一流のアスリートやアーティストほど、「緊張を味方につけている」という話を聞いたことはないでしょうか。
たとえば、元大リーガーのイチロー選手も「緊張しない人はダメ」と明言しています。
一流の人が取り入れ、一般の人が避けたがる緊張。緊張をコントロールするために、まずはその正体について、きちんと理解することから始めてみましょう。
緊張は悪いものではない
結論からいうと、緊張は決して悪いものではなく、ある程度必要なものです。
緊張は英語でテンションです。「テンションが低いからやる気にならない」というように、緊張は集中力をアップし、作業効率を上げるために必要なものです。
緊張はしないよりもした方が、高いパフォーマンスを発揮できるのです。
緊張は敵ではなく味方である
緊張だけではなく、ストレスなど不快とされているものがあった方がパフォーマンスは上昇するということがわかっています。
マウスに電気ショックを加えると、適度な刺激の時に最も早く反応する、という実験があります。これはヤーキースとドットソンの法則というもので、生理心理学の基本とされる有名な法則です。
そしてこの刺激は、強すぎたり、弱すぎたりすると学習能力が低下することもわかっています。
問題は強すぎる緊張
つまり、問題なのは、強すぎる緊張「過緊張」の状態です。
緊張が弱すぎる場合
緊張がなくリラックスしすぎている時、人はどうなるでしょうか。
- 何となく気分が乗らない
- 不注意になる
- 怖気づく
- なげやりになる
以上をみると「リラックスしすぎ」というのも、大事な場面には適していません。
緊張が強すぎる場合
過緊張の状態、つまり私たちが「緊張しすぎ」と恐れる状態はどうでしょうか。
- うろたえる
- 焦る
- 体が固まる
- 頭が真っ白になる
- 何が何だかわからない
以上のように、過緊張の状態では、十分なパフォーマンスを発揮するのは難しいでしょう。
程よい緊張の場合
では、ほどよく緊張している状態ではどうでしょうか。
- 一心不乱
- 注意集中力アップ
- 興奮する
- ワクワクしているような気分
このように、緊張を味方につけている状態では、パフォーマンスを普段より上昇させることが期待できます。
無理にリラックスする必要はなく、重要なのは過緊張にならず、適性状態でいるために自分をコントロールをすることなのです。
緊張をコントロールする方法
では緊張をコントロールするには、どうしたら良いのでしょうか。
1.副交感神経を優位にする
人は交感神経が優位だと緊張をしていまいます。適性緊張にするためには「交感神経の働きを抑えて、副交感神経に切り替えることが必要です。
交感神経は昼間に活動しています。交感神経が優位になると、心拍数、血圧、呼吸数、体温などが上昇し、筋肉は緊張します。
反対に副交感神経は夜、リラックスしているときに働いている自律神経です。副交感神経が働くと、心拍数、血圧、呼吸数、体温などが下降し、筋肉は緩みます
つまり、この副交感神経を優位にすることで、重要な場面でもリラックスして臨むことができるのです。
副交感神経を優位にする方法
では副交感神経を優位にするには、どのようなことをすれば良いのでしょうか。
交感神経と副交感神経は、心拍数、血圧、呼吸数、体温、筋肉などにかかわりのある自律神経でした。
このなかで、自分でコントロールできるものを意識することにより、副交感神経を優位にすることができます。
深呼吸を意識する
呼吸をゆっくりしようと意識することで、副交感神経を優位に働かせるスイッチを入れることができます。
「緊張したときには深呼吸」は科学的に理にかなったものです。
でも深呼吸をしても、なかなか緊張がとれない、ということがないでしょうか。そういった方は深呼吸を「早くやっていないか」注意してみてください。
深呼吸は吸って吐いてを早くやってしまうと、逆に交感神経に働きかけてしまいます。緊張しやすいひとは、もともとの呼吸が浅く、深呼吸がうまくできません。普段から練習しておくことも大切です。
正しい深呼吸の仕方
正しい呼吸の仕方は、ヨガや瞑想のようなイメージです。
- 全て息を吐き切る
- 細く長く吐く
- 腹式呼吸で行う
- 呼気は吸気の2倍以上の長さ
です。
緊張しやすい人は3〜5秒で息を吸い、10秒以上かけて吐くを3回をとりあえず実践してみましょう。緊張が治まらないようなら、2,3分繰り返し行います。
その他の方法
また筋肉も、ストレッチやマッサージをすることで、身体がほぐれ、副交感神経に優位に切り替わります。本番前に伸びをしたり、ストレッチをして固まった筋肉をほぐすことも、効果的な過緊張対策です。
また、ゆっくり話すことを心がけたり、笑顔を10秒つくることも副交感神経に働きかけます。
睡眠不足は自律神経自体が乱れてしまうため、緊張しやすくなってしまいます。普段から睡眠をしっかりとるようにし、大事な日の前日は特に、準備が気になって眠れなかった、などいうことにならないように気を付けましょう。
2.セロトニンを活性化する
セロトニンを活性化することでも、過緊張を抑えることができます。
セロトニンとは脳内物質の一種で、落ち着き、平常心、心の安定。共感などに関係しています。
セロトニンが活性化していると、心が落ち着き、穏やかになり、考えもしなやか、他の人にも共感できるようになります。
逆にセロトニンが足りないと、イライラし、怒りやすく、心は不安定になり、夜はぐっすり眠れず、人と共感することも難しいです。
このセロトニンを活性化することで、緊張とは反対の、心の安定を図ることができます。
セロトニンは他の脳内物質を調整する
セロトニンにはもう一つ役割があります。それは他の脳内物質を調整することです。
脳内には50以上もの脳内物質があり、それぞれの働きがあります。セロトニンはそれらが出すぎている場合は調整し、少ない場合には増やすという役割を果たしています。
緊張状態とは脳内物質であるノルアドレナリンが過剰分泌されていることをいいます。ノルアドレナリンの過剰分泌を抑えることができれば、過緊張になることはありません。
セロトニンが適正に働いていれば、過緊張は勝手にコントロールされるというわけです。
セロトニンの活性法
セロトニン神経は疲れやストレス、不規則な生活などで弱まってしまいます。
忙しいと怒りっぽくなったり、気持ちの浮き沈みが激しくなったりした経験はないでしょうか。
セロトニンは緊張だけではなく、感情のコントロールにも関わっています。
セロトニンを活性化させるためには、健康的な生活であることが大切になります。
朝日を浴びる
まずは朝日を浴びることです。
セロトニンは2500ルクスの光を5分間浴びると活性化します。
2500ルクスが一体がどのくらいかというと、
- 晴れの日の日の出後
- 晴れた日の窓際1メートル付近
の程度です。
ちなみに、晴天の日の屋外は10万ルクス、曇天でも3万ルクスあります。
セロトニンの合成は午前中にピークを迎え、夜には作られなくなります。仕事が夜型の人は休日だけでも、午前中に散歩をするなど、なるべく日を浴びるようにしましょう。
リズム運動
ウォーキング、ジョギング、自転車、ダンス、ラジオ体操など1、2、1、2のリズムを刻める運動を行うことも、セロトニンの活性化につながります。運動は最低5分、できれば15分から30分行うようにしましょう。あまりに長時間行うと、神経も疲れてしまうので適度な運動が好ましいです。
その他効果的なこと
その他に効果的なことは、
- 朝食をとる
- ガムを噛む
- 姿勢を良くする
などです。
セロトニンの分泌が安定するには時間がかかるので、普段から規則正しい生活をし、習慣化することが大切です。
ノルアドレナリンをコントロールする
緊張状態では脳内物質ノルアドレナリンが分泌されています。ノルアドレナリンが過度に出てしまっている状態が過緊張であり、これを下げることで緊張状態は緩和されます。
ノルアドレナリンは決してマイナスの脳内物質ではありません。
ノルアドレナリンが分泌されると、脳が研ぎ澄まされて集中力が高まり、判断力が高まります。また、記憶力が高まり、学習能力も身体能力をも高めることができます。
しかし過度に分泌されると、機能異常を起こし、身体がこわばる、足もすくむ、頭が真っ白になるなど、私たちが「緊張して思うような力を発揮できない」という状態になってしまうのです。
そのためノルアドレナリンを適正量へコントロールすることが大切です。
ノルアドレナリンをコントロールするには
ノルアドレナリンは原始人が敵に出会ったときに分泌される物質です。極限状態の中で、最大のパフォーマンスを発揮するための物質ともいえます。
緊張するような状況では、人は敵に出会ったときのような恐怖や不安を感じ、臨戦態勢に入ります。
ではその恐怖はどこからくるのでしょうか。恐怖はいままでの経験から生まれます。個人のなかにある過去のデータベースが緊張をつくるのです。
つまりノルアドレナリンをコントロールするには、自分の中にある恐怖や不安を取り除くことが必要です。
準備を徹底する
まずは徹底的に準備をすることです。準備は本番さながら、予行練習といえる段階まで必ず行いましょう。
予行練習をすることで、成功体験を積み上げ、失敗するのではないか、未知のことへの恐怖といった脳のデータベースを書き換えることが可能になります。
「100%準備した」と思えれば、自信にも繋がり、緊張する隙がありません。
正しくセルフフィードバックする
緊張に弱い人は、自己評価が低い傾向があります。自分でネガティブに評価してしまうと、脳にはそのマイナスの信号がインプットされてしまいます。
ネガティブな評価では失敗と思えることでも、客観的になり「なぜ不満足な結果になったのか」「どこを改善すれば良くなるのか」「伸ばすべき点はあるか」など、ポジティブに評価することが大切です。
イメージトレーニング
プロのアスリートやスポーツ選手ほどイメージトレーニングを取り入れています。それは、人間の脳は現実とイメージを区別できないため、イメージトレーニングをすればするほど、成功体験を脳にインプットすることができるからです。
例えばフィギュアスケートの羽生結弦選手は、一つのジャンプを成功させるために何時間もイメージトレーニングを繰り返します。
本番の舞台に立った時も、成功のイメージが出来て居れば、急に尻込みをしてしまったり、緊張しすぎてしまうことはありません。
対処法を考えておく
人は「自分では解決できない」と思っていることがストレスになります。逆にいえば、自分でコントロールが可能であればストレスにはなりません。
「頭が真っ白になったらどうしよう」と思ったら、対処法を考えて置く。例えば「水を飲んでいるうちに思い出そう」「忘れたらこの項目まで飛ばして後で戻ろう」など、本番でも簡単にできるものがあれば、安心して臨むことができます。
緊張をコントロールして成功を目指す
緊張をコントロールする方法について紹介してきました。緊張は決して悪いものではなく、パフォーマンスを高め、実力を発揮するためにむしろ味方につけたいものです。
緊張のコントロールの仕方はどれも難しいものではなく、すぐに取り入れやすいものです。
また健康的な生活を送ったり、普段から準備をしておくことで、過緊張になりにくい状態でいることができ、大事な場面を迎える毎にうろたえてしまう、ということもなくなります。
ぜひ緊張をコントロールする方法を身に着けて、大事な場面で力を発揮できるようにしましょう。
参考文献
樺沢紫苑「いい緊張は能力を2倍にする」文響社 2018